漫画編集者は何を見ているのか — ネームが「通る」ときと「通らない」ときの判断基準

漫画編集者に持ち込みをすると、数分で判断されることがあります。
早すぎる、と感じるかもしれません。でも編集者は、短時間で見るべき場所を知っているだけです。
この記事では、その「見るべき場所」を分解します。
1. 最初の3ページで、何が起きているか
編集者が最初に確認するのは、3ページ目までに「読む理由」が提示されているかです。
設定の説明ではありません。世界観の紹介でもありません。
「この先どうなるんだろう」と思わせる何かが、3ページ以内にあるかどうか。
雑誌でもアプリでも、読者は最初の数ページで離脱します。編集者はその読者の代わりに読んでいます。
2. 主人公が「何を我慢しているか」がわかるか
キャラクターが立っている、という言い方をよくします。
これを具体的に言い換えると、主人公が何を欲しがっていて、何をこらえているかが、行動から読み取れるかということです。
セリフで説明されていると弱い。行動で見えていると強い。
3. コマの大きさが、感情の大きさと一致しているか
見せ場のコマが小さいネームは、非常に多いです。
描いている本人はそのシーンが重要だと知っているので、小さくても重要に見えてしまいます。読者にはわかりません。
コマの面積は、そのまま「ここが大事です」という合図です。合図が出ていなければ、伝わりません。

4. 説明が重複していないか
セリフで説明し、モノローグでも説明し、絵でも説明している——これが起きると、テンポが落ちます。
同じ情報は、いちばん強い1か所だけに置く。
5. 読後に一行で要約できるか
編集者は読み終わったあと、頭の中で「この話は◯◯の話」と要約しています。
要約できない作品は、会議に持っていけません。企画として説明できないからです。
持ち込み前のチェックリスト
☐ 3ページ以内に「読む理由」があるか
☐ 主人公が我慢しているものが、行動でわかるか
☐ いちばん大事なコマが、いちばん大きいか
☐ 同じ情報を2回以上説明していないか
☐ 一行で要約できるか

自分では確認しにくい理由
このチェックリストは、他人のネームには使えます。
自分のネームには、うまく使えません。
理由は単純で、描いた本人はすでに内容を知っているからです。知っている人間には、説明不足も、コマの小ささも、見えません。
だから第三者の目が必要になります。
AIに先に読ませるという選択肢
近年は、持ち込みの前にAIにネームを読ませる作家が増えています。
alu Inc.と集英社「少年ジャンプ+」編集部が共同開発した「コミコパ(Comic-Copilot)」のようなアシスタントツールもありますし、M2Wのようにネーム全体を通して読み、構成上の問題を指摘するものもあります。
M2Wが返すのは、「テンポが悪い」ではなく「3ページ目の4コマ目で情報量が過多」という形式の指摘です。上のチェックリストを、他人の目で機械的に適用するイメージに近いです。
編集者に見せる前の一段階として使えます。
まとめ
編集者が見ているのは、才能ではありません。
読む理由が早く提示されているか
感情の大きさとコマの大きさが一致しているか
一行で要約できるか
いずれも、直せる項目です。
通らなかったネームは、失敗ではなく、直す場所がまだ特定できていないだけです。

Sean
Co-founder & CEOSerial entrepreneur with a previous exit in 2022, Forbes 30 Under 30 Asia 2021, Waseda University graduate, and Japanese-English bilingual. Favorite manga: "Kochira Katsushika-ku Kameari Kōen-mae Hashutsujo" and "Asari-chan".